この整然とした山水画は静寂さと優雅さをたたえています。左下の岩山に、様々な姿の古木が生い茂り、平坦な台地が右側に伸びています。中央にはあずまやが見えます。上下を清流が滔々と流れ、中間には木々が巧みに配置されていて、趣があります。重なる雲と霧の向こうには、遠く山々の尾根が連なっています。絵全体が上品さと爽やかさをたたえ、優しく洗練された画風は、まさに作者そのもののようです。
作者の馬寿華は1893年に生まれ、幼い頃から書画をこよなく愛していました。彼の書道は主に王羲之、王献之、顔真卿、米芾から学んだもので、行書と楷書の間の書体である「行楷(ぎょうかい)」は穏やかで秀逸です。絵画は、宋、元、明、清の画家たちを深く研究しています。山水や花、特に墨竹画に秀でており、ペンの代わりに指で描く画法を得意としています。この山水画は指を使って描いた絵の代表作の一つです。
通常水墨画は指で描くと、荒々しさが出て、滑らかな墨の趣が損なわれてしまいがちです。しかし作者が何気なく描いた絵には、熟達した技の中に不器用さが垣間見られ、フィンガーペイントならではの得難い面白さがあります。彼の最も評価できる点は、古きに学びながらも古きに固執せず、古き良き物を踏襲しつつ新しさを取り入れて独自のスタイルを確立したところです。
馬寿華は1947年に台湾に渡ってきて、司法界の重鎮の一人となります。余暇を利用してよく絵を描いて楽しみ、1955年に張穀年、高逸鴻ら7人の画家と「七友畫會」という絵画グループを結成して、台湾全土で開催された多くの美術展や国際的な書道展に参加しました。