この作品は「蟠龍方壺」と呼ばれる壺で、口回りに透かし彫りの蛇が網状に施されています。春秋時代中後期に発達した「失蝋【ロストワックス】」という優れた鋳造技法が用いられているからこそ、このような完成度の高い作品ができたのです。壺の耳は四本足の龍の立体彫刻です。頭が180度回転して外側を向いており、私たちが見慣れている東洋の龍とは異なる形状をしています。壺の胴には龍を図案化した龍紋(りゅうもん)や、雲紋雷紋(うんもんらいもん)と呼ばれる幾何学模様が連なる稲妻紋(いなずまもん)が施され、底には一対の虎が壺を支えるように伏しています。立体彫りの低い姿勢の虎は力強く、威嚇するように舌を出し、迫力のある表情をしています。
1923年河南省新鄭市で偶然発掘された「鄭公大墓(ていこうだいぼ)」と呼ばれる御陵は春秋時代中後期の鄭国貴族のお墓です。このお墓から出土した青銅器には東周時代初期の金属工芸の技はもとより、その華麗な装飾と図案には南方諸侯の楚国の文化的影響も見られます。これらの良質な青銅器が出土した後、地元の軍閥と政府は協議の上、河南省博物館の前身となる骨董品保管所を設立しました。
1949年、政府軍と共に一部の青銅器と文化財が台湾に運び込まれました。この時移送された文化財が今日の国立歴史博物館が収蔵するコレクションの要になっています。その中でも代表的な青銅器がこの「蟠龍方壺」で、その精緻で雄大な形状と歴史的価値から、2011年に台湾の国宝に指定されました。