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大里涛聲 だいりとうせい
傅狷夫(1910-2007)|紙本著色
voice

1949年の春、傅狷夫は上海から台湾に向かう船の上で、初めて予測不能の荒れ狂う波を目にしました。彼はその時見た海の雄大さと感動を「深く青黒い海、山のように盛り上がる波」と形容しています。その後、彼は小型列車で台湾の北東に位置する宜蘭県の大理まで行く機会に恵まれました。彼はこの時、刻々と変化する波や海岸の奇妙な形の岩々に触れ、ゆらゆらとたゆとう波や激しくぶつかり合う波の情景を、細かく観察して丁寧にスケッチしました。寄せては返す波の千差万別の姿を表現するために、彼は「點漬法(てんしほう)」という独自の描法を考案して、すぐに消えてしまう儚い波や雄大な波の姿を描き留めたのです。

昔の人は水を線で表現しました。寄せては返す波も線でうまく表現できましたが、水は決まった形を持っていません。ですから、線で波の形を決めてしまうと、刻々と変化する波の表情の描写が制限されてしまうのです。傅狷夫は10年の研究を経て、ついに伝統的な絵画技法を打ち破り、水を描く技法の頂点を極めました。墨で輪郭を描かない「没骨筆法(もっこつひっぽう)」と、墨を滲ませてぼかす「渲染(せんせん)」法に、「點漬(てんし)」法を組み合わせて、水しぶきを上げて舞いおどる波の様子をより鮮明に表現する、ほかに類を見ない画法をあみだしたのです。

傅狷夫は自分で考案した描法を使って台湾の山、岩、雲海、波などの自然の特徴を写生した画家であり、台湾山水画の第一人者なのです。

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大里涛聲 だいりとうせい
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