この草書作品は、大小さまざまな字体があります。墨が濃くふっくらとした温かみのある字もあれば、乾いた墨で意志の強さや男性的な質感を表現した字もあり、全体的にあふれ出る勢いと、強さを感じさせる作品といえます。
まず、左側の小さい字体の落款を見てみましょう。阿里山雑詩之一。大橋君嘱・新平、とあります。作者の後藤新平は、1898年から1906年までの8年間、台湾の民政局長を務めました。数々の大規模な計画や建設を推進し、50年間の日本統治時代において、台湾統治に最も影響力のあった人物の一人です。この草書漢詩の全文の意訳は次の通りです。「『甌北詩話(おうほくしわ)』が編纂されて数年がたつ。樹海を動かすのは無理だろうか。神のご意志に添うために、鞭で山を切り開く私を責めてくれるな」この詩で作者は、一方で阿里山の森を広大で鬱蒼とそびえ立つ樹海と形容し、同時に、阿里山の開発と良質な木材の利用への期待を込めています。
後藤新平は豊富な創造力と改革への熱意に満ち、尚且つ有能な執行者でもありました。阿里山森林鉄道も後藤新平の指導のもとに建設されました。彼の精力的で力強い筆運びからは、内在する勇猛果敢な気迫が伝わってくるようです。