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阿里山雲海
傅狷夫(1910-2007)|紙本著色
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傅狷夫の作品は、古典的な描法や様式を継承しながらも画期的な新しい発想を取り入れており、彼があみだした独自の描法は美術界から「傅家山水(ふけさんすい)」と称賛されています。この阿里山は作者が実際登山して刻々と変化する雲海を観察して描いた作品です。「洗墨法(せんぼくほう)」と呼ばれる、墨が乾かないうちに綺麗な水で洗い流してエッジを鮮明にする独自の描法で、雲の柔らかな変化を描き、「烘托法(こうたくほう)」という、輪郭の外側を薄墨で塗って画像を引き立たせる描法で、雲海の雄大さを際立たせています。雲海の奥行と量感には「破墨法(はぼくほう)」が使われています。「破墨法」とは、墨の色調を破るという意味で、先に描いた墨が乾かないうちに違う階調の墨を差して、絵に立体感や生動感を与える描法です。このように、作者はさまざまな描法を用いて、刻々と変化する雲の情景を詩のような幽玄の世界に仕上げているのです。台湾の高山の崖を描くのに作者が使用した「裂罅皴(れっかしゅん)」描法は、彼自身が台湾の「横貫公路」を訪れた後にあみだしたものです。山水画には山や岩などの凸凹や質量を表すのに使う「皴法(しゅんぽう)」という描法があります。伝統的な「皴法」には「馬牙皴(ばがしゅん)」と呼ばれる馬の牙のような形や、「斧劈皴(ふへきしゅん)」と呼ばれる斧で割ったような岩ひだを描く方法があります。作者が編み出した「裂罅皴(れっかしゅん)」は「馬牙皴(ばがしゅん)」や、「斧劈皴(ふへきしゅん)」を改良して編み出された描法で、台湾独特の岩の質感を表現しています。

傅狷夫は西洋のスケッチテクニックを中国の伝統的な水墨画に取り入れました。正に彼が言った「自然が作り出す素晴らしい造形は、私の筆を感情のままに大きく変化させる。さらに加えて北宋初期の画家「范寬(はんかん)」の『古人に学ぶより天地万物に学ぶほうがよい』を体現し、清朝初期の画家「石濤(せきとう)」の『画家は創作の素材やヒントを自然の山水に求めるべきだ』などの名言を内包するものだ。」の通りです。

当時、海を越えて台湾に来た画家の中で、台湾の名高い山岳風景を題材にする者は多くいました。しかし、台湾特有の山や川、霧の風景を表現する独自の描写法を編み出したのは「傅狷夫(ふけんふ)」だけでした。そのため、彼は「台湾山水の代弁者」と目され「台湾水墨画の創始者」として知られています。

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